上野竜生です。今回はフーリエ変換とフーリエ逆変換を紹介します。解析学を学び始めたときには順序交換は勝手にしてはいけないとかいろんな注意があったかもしれませんがこのレベルになってくるともはや順序交換などを認めてどんどん計算していきます。
これ以外にも解析学では注意すべき点がいくつかありますが,そういう厳密な証明は数学書に任せることにして,ここではテストによく出る計算をできることを目標にします。
フーリエ変換
f(t)をフーリエ変換した関数をF(ω)とする。このとき次が成り立つ
\(\displaystyle F(\omega) = \int_{-\infty}^{\infty} f(t)e^{-i\omega t} dt \)
逆にF(ω)をフーリエ逆変換すると次の関数f(t)になる。
\(\displaystyle f(t)=\frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} F(\omega) e^{i\omega t} d\omega \)
注意
1. 教科書によってはフーリエ変換・逆変換ともに\(\displaystyle \frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{\infty} \cdots \)にしているのもある。定数倍の違いなので計算そのものにはあまり影響はないが,自分の持ってる参考書や授業の担当教員はどれを定義にしているか意識すること。あとωをξにしているものもよくある。
2. 複素数の指数関数の積分があるが,これは普通の実関数の積分と同様に計算してよい
3. ある関数f(t)をフーリエ変換して,その結果をフーリエ逆変換すればf(t)に”だいたい”戻る。「だいたい」と言っているのは例題1を参照。
「フーリエ変換せよ」という問題はよく見かけるが計算方法が同じだからか「フーリエ逆変換せよ」という問題はあまり見かけない。そこでフーリエ変換することを重点的に考える。
f(t)が偶関数・奇関数のときのフーリエ変換
f(t)が偶関数のときf(t)のフーリエ変換F(ω)は
\(\displaystyle F(\omega)=2 \int_0^{\infty} f(t)\cos{\omega t}dt \)
f(t)が奇関数のときf(t)のフーリエ変換F(ω)は
\(\displaystyle F(\omega)=-2i \int_0^{\infty} f(t)\sin{\omega t} dt \)
これはある程度導出できる。一般の定義から
\(\displaystyle F(\omega)= \int_{-\infty}^{\infty} f(t)e^{-i \omega t} dt \\ = \displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} f(t)(\cos{\omega t} -i\sin{\omega t} ) dt \)
f(t)が偶関数なら積分の第1項の被積分関数が偶関数に,第2項の被積分関数が奇関数になる。ここで偶関数を-R→Rで積分すると0→Rの積分の2倍に,奇関数を-R→Rで積分すると0になるという性質を使えば求める結果を得る。f(t)が奇関数のときも同様。
厳密には\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} \)は-NからMまでの積分をしてNとMは独立に∞に飛ばすのであり,-MからMまでの積分をしてMを∞に飛ばすわけではない。つまり0から∞までの区間と-∞から0までの区間がピッタリ重なるとは限らないが,ここではそういう細かい部分の議論は省略している。\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} |f(t)| dt < \infty \)であればよいし,実際,練習問題で使う関数はすべてこれを満たしているが,たいていの場合いちいちこのことには触れずに計算する。
フーリエ変換は定義は簡単な積分だが,実際に計算するとなると手頃な練習問題に使えるようなf(t)の例はあまり多くない。早速計算例を見てみよう。
例題1
(1)フーリエ変換してF(ω)を求めよ。
(2)(1)の結果をフーリエ逆変換せよ。必要ならば\(\displaystyle \int_0^{\infty} \frac{\sin{x}}{x} dx = \frac{\pi}{2} \)を用いてよい。
(1)は素直に定義に基づく方法と,偶関数であることを利用した定義と2通りで求めてみます。(2)でいきなり「必要ならば~を用いてよい」となってるあたりが嫌な予感がしますね。そうなんです。こんな簡単な例でも逆変換するときは高度な積分の結果を使うことになるのです。用いてよいといってる式自体は解析学のどこかで見たことあるような有名な結果ですが,これも導出するとなると手頃ではありませんよね。そこでこの結果は証明なしで使うことにします。
\(\displaystyle F(\omega)= \int_{-\infty}^{\infty} f(t) e^{-i\omega t} dt \\ = \displaystyle \int_{-1}^1 e^{-i\omega t} dt \\ = \displaystyle \left[ -\frac{1}{i\omega} e^{-i\omega t} \right]_{-1}^1 \\ = \displaystyle -\frac{1}{i\omega} (e^{-i\omega} -e^{i\omega}) \\ = \displaystyle \frac{i}{\omega} ( \cos{\omega} -i\sin{\omega} - \cos{\omega} -i\sin{\omega} ) \\ = \displaystyle \frac{i}{\omega} ( -2i\sin{\omega}) =\frac{2\sin{\omega}}{\omega} \)【偶関数であることを用いて解く】
\(\displaystyle F(\omega)=2\int_0^1 \cos{\omega t} dt \\ = \displaystyle 2\left[ \frac{1}{\omega} \sin{\omega t} \right]_0^1 \\ = \displaystyle \frac{2\sin{\omega}}{\omega} \)(2)
\(\displaystyle f(t)= \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} \frac{2\sin{\omega}}{\omega} e^{i\omega t} d\omega \\ = \displaystyle \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} \frac{2\sin{\omega}}{\omega} (\cos{\omega t} +i\sin{\omega t}) d\omega \\ = \displaystyle \frac{2}{2\pi} \int_0^{\infty} \frac{2\sin{\omega}\cos{\omega t}}{\omega} d\omega \\ \displaystyle =\frac{1}{\pi} \int_0^{\infty} \frac{\sin{(1+t)\omega} + \sin{(1-t)\omega}}{\omega} d\omega \)
(最後は積和の公式を使った)
このあとの計算のためにAを実数として以下の計算をしておく。
\(\displaystyle \int_0^{\infty} \frac{\sin{Ax}}{x}dx \)
A=0のときは被積分関数が0なので0。
A>0のとき\( s=Ax \)と置換すると
\(\displaystyle \int_{0}^{\infty} \frac{\sin{s}}{s}ds = \frac{\pi}{2} \)
A<0のとき\( s=-Ax \)と置換すると
\(\displaystyle \int_{0}^{\infty} -\frac{\sin{s}}{s}ds = -\frac{\pi}{2} \)
となる。これらを利用すると
f(t)は-1<t<1のとき
\(\displaystyle \frac{1}{\pi} \left(\frac{\pi}{2} + \frac{\pi}{2}\right)=1 \)
t>1のとき
\(\displaystyle \frac{1}{\pi} \left(\frac{\pi}{2} - \frac{\pi}{2}\right)=0 \)
t<-1のとき
\(\displaystyle \frac{1}{\pi} \left(-\frac{\pi}{2} + \frac{\pi}{2}\right)=0 \)
t=1のとき
\(\displaystyle \frac{1}{\pi} \left(\frac{\pi}{2} +0 \right)=\frac{1}{2} \)
t=-1のとき
\(\displaystyle \frac{1}{\pi} \left(0+ \frac{\pi}{2}\right)=\frac{1}{2} \)まとめると
\(\begin{eqnarray} f(t)= \begin{cases} 1 & ( -1<t<1 ) \\ \frac{1}{2} & ( t=\pm 1 ) \\ 0 & (t>1,t<-1) \end{cases} \end{eqnarray} \)
フーリエ変換したあとフーリエ逆変換すると「だいたい」元に戻ると言っていたのは,f(t)が連続なところではピッタリ元に戻りますが不連続点のところだけはズレます。それもそのはずでt=1で不連続なf(t)に対してF(ω)を計算するときt<1の積分とt>1の積分にわけただけでt=1の値を用いていないのでフーリエ変換→フーリエ逆変換でt=1の値が元に戻るわけはないのです。ですが,実はこの例に限らずt→1-0の極限とt→1+0の極限を足して2で割ったものになります。一般に不連続点の前後の極限を足して2で割ったものになります。
というわけで大学の定期試験などではここまで知っていたら瞬殺できるように(2)は結果だけ書かせることもあるでしょう。その場合は不連続点以外t≠±1ではf(t)に戻り,t=±1ではその前後の極限を足して2で割ったものを答えればほぼ計算不要で正解できます。
例題2
(1)\( f(t)=e^{-2|t|} \)
(2)\(\displaystyle f(t)=\frac{1}{t^2+4} \)
\(\displaystyle \int_{-\infty}^0 e^{2t} e^{-i\omega t} dt + \int_0^{\infty} e^{-2t} e^{-i\omega t} dt \\ = \displaystyle \int_{-\infty}^0 e^{(2-i\omega)t} dt + \int_0^{\infty} e^{(-2-i\omega)t } dt \\ = \displaystyle \left[ \frac{1}{2-i\omega} e^{(2-i\omega) t} \right]_{-\infty}^0 + \left[ \frac{1}{-2-i\omega} e^{(-2-i\omega)t} \right]_0^{\infty} \\ = \displaystyle \frac{1}{2-i\omega} + \frac{1}{2+i\omega} = \frac{4}{4+\omega^2 } \)
最後の方の定積分を計算するときt→∞の極限は0であることに注意
(一般にAが実数のとき\( e^{iA}=\cos{A}+i\sin{A} \)なので\( |e^{iA}|=1 \),つまり\( |e^{2t-i\omega t}|=e^{2t}\)などが成り立つ。)
(2)これを素直に計算すると
\(\displaystyle F(\omega)=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{t^2+4}e^{-i\omega t } dt \)
を計算することになります。これを素直に計算するのは非常に難しいです(複素積分の知識がいる→あとで軽く紹介する)。偶関数のフーリエ変換の公式を使っても同様です。
では,どうするかというと(1)を利用します。(1)の結果と(2)の関数が似ていますね。フーリエ変換の公式とフーリエ逆変換の公式も似てますね。これをうまく利用しましょう。
\(\displaystyle \frac{1}{2\pi} \int_{-\infty}^{\infty} \frac{4}{4+\omega^2} e^{i\omega t}d\omega = e^{-2|t|} \)・・・①
今回求めたいものは
\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{4+t^2} e^{-i\omega t} dt \)・・・②
です。①を利用して②を求められないでしょうか?
①がωで積分するのに対し,②がtで積分するのでパラメータがややこしくなります。そこで①のωとtのラベルを入れ替えて②の形に寄せます。ついでに2π倍もしておくと
\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} \frac{4}{4+t^2} e^{i \omega t} dt = 2\pi e^{-2|\omega|} \)・・・①’
ほぼ同じですがeの指数部分の符号がちょっと違います。そこでs=-tと置換してみましょう。すると
\(\displaystyle \int_{\infty}^{-\infty} \frac{4}{4+(-s)^2} e^{-i \omega s}\cdot (-1) ds=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{4}{4+s^2} e^{-i\omega s} ds=2\pi e^{-2|\omega|} \)
となるので両辺を4で割ると②の結果は
\(\displaystyle \frac{\pi}{2} e^{-2|\omega| } \)
と求まります。
【オマケ (1)を使わず複素積分を使って(2)を単独で解く】
留数計算の知識がないと解けないので習ってない人は飛ばしてください。
を計算すればよい。
ω=0のとき
\(t=2\tan{\theta}\)とおくと
\(\displaystyle \int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}} \frac{1}{4(\tan^2{\theta}+1)} \cdot 2\frac{1}{\cos^2{\theta}} d\theta \\ = \displaystyle \int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}} \frac{1}{2} d\theta = \frac{\pi}{2} \)
ω>0のとき下半平面の半円で反時計回りに積分をする。
-2iでの留数は
\( \displaystyle \lim_{z \to -2i} (z-(-2i)) \frac{e^{-i\omega t}}{(z+2i)(z-2i)} = \frac{e^{-i \omega \cdot (-2i)}}{-4i} \)
留数定理より半円全体での積分は2πi×留数なので
\(\displaystyle 2\pi i \cdot \frac{e^{-2\omega }}{-4i}=-\frac{\pi}{2} e^{-2\omega} \)
円周部分の積分
\( t=Re^{i\theta}=R\cos{\theta}+iR\sin{\theta} ~(\pi \leq \theta \leq 2\pi) \)の経路なので
\(\displaystyle \left| \int_{\pi}^{2\pi} \frac{e^{-i\omega (R\cos{\theta} + iR\sin{\theta})} }{R^2 e^{2i\theta} +4} \cdot Rie^{i\theta} d\theta \right| \\ \leq \displaystyle \int_{\pi}^{2\pi} \left| \frac{e^{R\omega \sin{\theta} - iR\omega \cos{\theta}}}{R^2 e^{2i\theta} +4} \cdot Ri e^{i\theta}\right| d\theta \\ \leq \displaystyle \int_{\pi}^{2\pi} \frac{1}{R^2-4}R d\theta = \frac{R\pi}{R^2-4} \to 0 ~(R\to \infty) \)
\(\pi \leq \theta \leq 2\pi \)では\(\sin{\theta}\leq 0 \)なので
R>0,ω>0に注意すると\( R\omega \sin{\theta} \leq 0 \)
よって
\( |e^{R\omega \sin{\theta} - iR\omega \cos{\theta}}| \\ \leq |e^{R\omega \sin{\theta}}||e^{ - iR\omega \cos{\theta}}| \\ \leq e^0 \cdot 1 =1 \)
よって直線部分の積分は向きに注意すると
\(\displaystyle \int_{R}^{-R} \frac{e^{-i\omega t}}{t^2+4} dt \to -\frac{\pi}{2} e^{-2{\omega}} (R\to \infty) \)
つまり
\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} \frac{e^{-i\omega t}}{t^2+4} dt=\frac{\pi}{2} e^{-2\omega } \)
ω<0のとき上半平面の半円で積分をする。
2iでの留数は
\( \displaystyle \lim_{z \to 2i} (z-2i) \frac{e^{-i\omega t}}{(z+2i)(z-2i)} = \frac{e^{-i \omega \cdot (2i)}}{4i} \)
留数定理より半円全体での積分は2πi×留数なので
\(\displaystyle 2\pi i \cdot \frac{e^{2\omega }}{4i}=\frac{\pi}{2} e^{2\omega} \)
(円周部分が0になる証明は積分区間を0→πに変えるだけで上と同じなので省略。sinθ≧0になるのとω<0で符号変化が相殺されるので分子が1でおさえる部分も成り立つ。積分経路全体の向きが反対なので符号調整もいらないことに注意。)
よってまとめると
\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} \frac{e^{-i\omega t}}{t^2+4} dt=\frac{\pi}{2} e^{-2|\omega| } \)
ω>0のときに上半平面にしてしまうと違う留数が出るのでは?と思うかもしれませんがそもそも円周部分の極限が0になりません。なのでこの積分経路は使えません。
同様にω<0に下半平面も使えません。
フーリエ変換は定義を覚えること自体はすぐ出来ますが,実際に計算するのは結構大変です。定期試験では例題1(1)や例題2((1)→(2)でフーリエ逆変換を利用するタイプ)までできれば十分ですが大学院試験では例題1(2)や例題2(2)単独出題まで対応できるようにしたいところです。
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