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上野竜生です。今回は留数定理の応用例の続きを紹介します。典型的な基礎パターンについて読んでいない人はここから復習しておきましょう。

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基本パターンは,上側の半円が積分経路になるパターンと,sinやcosのみの積分を単位円の複素積分に変えるパターンです。ここまでは割と丁寧に解説しました。ここからはさらなる応用パターンを紹介します。基礎パターンで丁寧に解説したところは少し説明を飛ばす部分もあるので,基礎パターンはしっかり理解したうえで読みましょう。

前回の続きということで例題3から始めます。

例題3

\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} \frac{x\sin{x}}{x^2-2x+3}dx \)

\(\displaystyle f(z)=\frac{ze^{iz}}{z^2-2z+3} \)とおき,図のような積分経路を考える。まずは極を求める。
例題3
\( x^2-2x+3=0 \)より\( x=1\pm \sqrt{2}i \)
このうち積分経路の中にあるのは\( 1+\sqrt{2}i \)でこれは1位の極。
\( 1+\sqrt{2}i \)での留数を求める。
\(\displaystyle Res(1+\sqrt{2}i)=\lim_{z\to 1+\sqrt{2}i } (z-(1+\sqrt{2}i)) \frac{ze^{iz}}{(z-(1+\sqrt{2}i))(z-(1-\sqrt{2}i))} \\ =\displaystyle \frac{(1+\sqrt{2}i)e^{-\sqrt{2}+i} }{1+\sqrt{2}i-1+\sqrt{2}i} \\ = \displaystyle \frac{1}{2\sqrt{2}i} \cdot (1+\sqrt{2}i) \cdot e^{-\sqrt{2}}(\cos{1}+i\sin{1}) \)

よって留数定理より
\(\displaystyle \int_{C_1+C_2+C_3+C_4} f(z)dz = 2\pi i Res(1+\sqrt{2}i) \)

\( Y=(R_+ + R_-)^2 \)とする。
\(|z| \)が十分大きいとき
\(\displaystyle \left| \frac{z^2}{z^2-2z+3} \right|<M \)
となるMが存在する。
\(C_1 \)での積分を求める。積分経路は
\( z=R_+ + it ( t: 0 \to Y) \)
である。よって
\(\displaystyle \left| \int_{C_1} f(z)dz \right| \leq \int_0^{Y} \left| \frac{z^2}{z^2-2z+3} \right| \left| \frac{1}{z} \right| |e^{-t+iR_+}| |i| dt \\ \displaystyle < \int_0^{Y} M \frac{1}{R_+} e^{-t}dt = \frac{M}{R_+}\left[ -e^{-t} \right]_0^Y \\ = \displaystyle \frac{M}{R_+} (1-e^{-Y}) \to 0 ~ (R_+ \to \infty)\)
同様に\(C_3 \)での積分も\(R_- \to ∞ \)のとき0に近づく。
次に\( C_2 \)での積分を考える。積分経路は
\( z=t+Yi (t: R_+ \to - R_-) \)
なので
\(\displaystyle \left| \int_{C_2} f(z)dz \right| \leq \int_{-R_-}^{R_+} \left| \frac{z^2}{z^2-2z+3} \right| \left| \frac{1}{z} \right| | e^{-Y+it} | dt \\ \displaystyle \leq \int_{-R_-}^{R_+} \frac{M}{Y} e^{-Y}dt = \frac{M(R_++ R_-)}{Y}e^{-Y} \to 0 \)
よって
\(\displaystyle \int_{C_4} f(z)dz \to 2\pi i Res(1+\sqrt{2}i) ~ (R_+ \to \infty , R_- \to \infty) \)

求めるものは虚部をとって
\(\displaystyle Im (2\pi i Res(1+\sqrt{2}i) ) \\ \displaystyle =Im\left( \frac{\pi}{\sqrt{2}} e^{-\sqrt{2}} (1+\sqrt{2}i)(\cos{1}+i\sin{1}) \right) \\ =\displaystyle \frac{\pi}{\sqrt{2}} e^{-\sqrt{2}} (\sqrt{2}\cos{1}+\sin{1}) \)

ここでのポイントは2つ。
まずはsinzの扱いですが,これは\( e^{iz} \)の虚部とするのが正解です。同様にcoszは\( e^{iz} \)の実部として考えます。
たとえば\(\displaystyle \cos{z}=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2} \)を用いてもいいんじゃないの?って思った人は残念ながら間違いです。
理由はR→∞の円周の積分で上から評価するのが不可能になってしまうからです。
z=x+iy(y≧0)ならば\( |e^{iz}|=|e^{-y+ix} |\leq 1 \)を使っているので\( e^{-iz} \)を含んでしまうとこの関係が使えなくなるのです。
2つめは積分区間を上半分の円にしても良さそう?ということですが,こちらは前回紹介した通り絶対収束が言えればいいのですが,絶対収束がいいにくいと思います。なのでR+=R-とは限らない一般の形で示す必要があります。
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例題4

\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} \frac{\cos{ax}-\cos{bx}}{x^2} dx \) (a≧0,b≧0)

\(\displaystyle f(z)=\frac{e^{iaz}-e^{ibz}}{z^2} \)とおく。
積分経路は図のようにとる。
例題4
コーシーの積分定理よりこの積分経路全体での積分は0。
まずC1での積分を考える。このとき,\( z=Re^{it} \)でt:0→πだから
\(\displaystyle \left| \int_{C_1} f(z) dz \right| \\ \displaystyle \leq \int_{0}^{\pi} \left| \frac{e^{-aR\sin{t}+iaR\cos{t}} - e^{-bR\sin{t}+ibR\cos{t}}}{R^2 e^{2it}} \cdot Rie^{it} \right| dt \\ \displaystyle = \frac{1}{R} \int_0^{\pi} |e^{-aR\sin{t}+iaR\cos{t}} - e^{-bR\sin{t}+ibR\cos{t}} | dt \\ \displaystyle \leq \frac{1}{R} \int_{0}^{\pi} \left| e^{-aR\sin{t}} \right| + \left| e^{-bR\sin{t}} \right| dt \\ \displaystyle \leq \frac{1}{R} \int_0^{\pi} e^{0}+e^{0} dt = \frac{2\pi}{R} \to 0 (R\to \infty) \)

次にC2を考える。
\( \displaystyle f(z)=\frac{1}{z^2} \sum_{n=0}^{\infty} \frac{i^n}{n!} (a^n- b^n)z^n \\ = \displaystyle \frac{i}{z}(a-b)+g(z) \)
ただし,g(z)は平面全体で正則な関数とかける。
よって
\(\displaystyle \lim_{\epsilon \to 0} \int_{C_{2}} f(z)dz = \lim_{\epsilon \to 0} \int_{C_{2}} \frac{i}{z}(a-b) dz = \pi (a-b) \)
以上より求める結果は\( (b-a)\pi \)

ここでのポイントは留数定理的には0になるのに答えが0にはなりません。
慣れてくると外側の大きな円とか,小さな円で迂回した部分の積分はいつも0になるだろう...と
考えがちですがそれは間違いだということです。

例題5

\(\displaystyle \int_0^{\infty} \frac{x^{a-1}}{x^4+1}dx ~(0<a<4) \)

\(\displaystyle f(z)=\frac{z^{a-1}}{z^4+1} \)とおく。
積分経路は図のようにとる。
例題5
\(\displaystyle \alpha= e^{\frac{\pi i}{4}}\)とおく。(つまり\( \alpha^4=-1 \))
積分経路内にある極は\( z=\alpha, \alpha^3 , \alpha^5 , \alpha^7 \)の4つ。
点αでの留数は
\(\displaystyle \frac{z^{a-1}}{(z^4+1)’} \)に\( z=\alpha \)を代入したものだから
\(\displaystyle Res(\alpha)=\frac{\alpha^{a-1}}{4\alpha^3}=\frac{\alpha^a}{4\alpha^4}=-\frac{\alpha^a}{4} \)
同様にすると
\(\displaystyle Res(\alpha^3)=-\frac{\alpha^{3a}}{4},Res(\alpha^5)=-\frac{\alpha^{5a}}{4},Res(\alpha^7)=-\frac{\alpha^{7a}}{4}\)
留数定理より積分経路全体での積分は
\(2\pi i(Res(\alpha) + Res(\alpha^3)+Res(\alpha^5)+Res(\alpha^7) \\ = \displaystyle -\frac{\pi i}{2}(\alpha^a+\alpha^{3a}+\alpha^{5a}+\alpha^{7a}) \)
次にC1(外側の円)での積分を考える。このとき,\( z=Re^{i\theta}\) でθ:0→2πだから
\(\displaystyle \left| \int_{C_1} f(z) dz \right| \\ \leq  \displaystyle \int_0^{2\pi} \left| \frac{R^{a-1} e^{i(a-1)\theta}}{R^4 e^{4i \theta}+1} \cdot R i e^{i\theta} \right| d\theta \\ \displaystyle \leq \int_0^{2\pi} \frac{R^a}{R^4-1}d\theta = \frac{2\pi R^{a}}{R^4-1} \to 0 (R\to \infty) \)
同様にC2(内側の円)での積分を考える。このとき,\( z=\epsilon e^{i\theta}\) でθ:2π→0だから同様にすると
\(\displaystyle \left| \int_{C_2} f(z) dz \right| \\ \leq \displaystyle \int_{0}^{2\pi i} \frac{\epsilon^a }{1-\epsilon^4 }d\theta = \frac{2\pi \epsilon^a}{1-\epsilon^4} \to 0(\epsilon \to 0) \)

\( R_1 \)での積分結果をIとする。
\( R_2 \)での積分は\( z=x e^{2\pi i} \)(x:R→ε)とかけるので
\(\displaystyle \int_{R_2} f(z) dz = \displaystyle \int_{R}^{\epsilon} \frac{x^{a-1} e^{2\pi (a-1)i} }{x^4 e^{8\pi i} +1} \cdot e^{2\pi i} dx \\ = \displaystyle \int_R^{\epsilon} \frac{x^{a-1}}{x^4+1} e^{2\pi ai} dx \\ = \displaystyle -e^{2\pi ai} I \)
よって留数定理の結果などとあわせると
\(\displaystyle (1-e^{2\pi ai})I=-\frac{\pi i}{2} ( e^{\frac{\pi ai}{4}} + e^{\frac{3\pi ai}{4}} + e^{\frac{5\pi ai}{4}} +e^{\frac{7\pi ai}{4}} ) \)

\( \displaystyle e^{\frac{\pi ai }{4}}=\beta \)とおくと
\(\displaystyle (1-\beta^8) I=-\frac{\pi i}{2} ( \beta+ \beta^3+ \beta^5+ \beta^7) \)

\( J=\beta+\beta^3+\beta^5 +\beta^7 \)
\( \beta^2 J= ~ \beta^3 + \beta^5+\beta^7+\beta^9 \)
\( (1-\beta^2)J=\beta-\beta^9=\beta(1-\beta^8) \)なので
\(\displaystyle I=-\frac{\pi i}{2} \frac{J}{1-\beta^8} \\ \displaystyle =-\frac{\pi i}{2} \frac{\beta}{1-\beta^2} = \frac{\pi i}{2} \frac{1}{\beta-\beta^{-1}} \)
ここで
\(\displaystyle \beta -\beta^{-1}= \cos{\frac{\pi a}{4}} +i \sin{\frac{\pi a}{4}} - \cos{\frac{\pi a}{4}}
+i \sin{\frac{\pi a}{4}} \\ \displaystyle = 2i\sin{\frac{\pi a}{4}}\)
なので
\(\displaystyle I=\frac{\pi i}{2}\cdot \frac{1}{2i\sin{\frac{\pi a }{4}}} = \frac{\pi}{4\sin{\frac{\pi a}{4}}} \)

ここのポイントはCみたいな形の積分経路を考えることと,\( R_2 \)の積分は基本的に\( R_1 \)と同じといいたいところですが微妙にずれるということです。
\( z=x e^{2\pi i} \)のとき,\( z=x , z^2=x^2 , z^3=x^3 ,\cdots \)ですが\( z^{0.1} \neq x^{0.1} \)などは一致しないところに注意しましょう。
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例題6

a>0のとき,次の計算をせよ
\(\displaystyle \int_0^{\infty} \frac{\log{x}}{(x+a)^2} dx \)

これは初見ではほぼ不可能と言ってもいいです。たぶん複素解析の一般論を100%完璧に理解してもこの問題を解いたことがなければ計算は不可能と言ってもいいレベルに難しいです。

まず,積分経路は例題5と同じです。ただし,今までとちがって
\(\displaystyle f(z)=\frac{\log{z}}{(z+a)^2} \)
とおくのではなく
\(\displaystyle f(z)=\frac{(\log{z})^2}{(z+a)^2} \)
とおきます。(理由はあとでR1+R2の計算をしてみるとlogzの最高次の項が消えるから1回多めにしないといけないとわかるはずです。1度経験しないとひらめくのは困難です。)

それでは,f(z)と積分経路がわかったところで解いてみましょう。


\(\displaystyle f(z)=\frac{(\log{z})^2}{(z+a)^2} \)とおく。
積分経路は図のようにとる。
例題5
留数定理より
\(\displaystyle \int_{C_1+R_2+C_2+R_1} f(z) dz =2\pi i Res(-a) \)
ここで
\(\displaystyle Res(-a)= \lim_{z\to -a} \left\{ \frac{(z+a)^2 (\log{z})^2}{(z+a)^2} \right\}’ \\ = \displaystyle \lim_{z\to -a} 2(\log{z}) \frac{1}{z}= \frac{2(\log{(a)} + \pi i)}{-a} \)
つまり
\(\displaystyle \int_{C_1+R_2+C_2+R_1} f(z) dz =\frac{4\pi^2 - (4\pi \log{a})i }{a} \)・・・①

次にC1とC2を考える。
C1は\( z=Re^{i\theta} (\theta : 0 \to 2\pi ) \)だから
\(\displaystyle \left| \int_{C_1} f(z)dz \right| \leq \int_0^{2\pi} \left| \frac{ (\log{Re^{i\theta} })^2}{(Re^{i\theta} +a)^2} Rie^{i\theta} \right| d\theta \\ \displaystyle =\int_0^{2\pi } \frac{R | (\log{(Re^{i\theta}) } )^2 |}{(R-a)^2} d\theta \to 0 \)
(R→∞)・・・②
C2は\( z=\epsilon e^{i\theta} (\theta : 2\pi \to 0 ) \)だから
\(\displaystyle \left| \int_{C_2} f(z)dz \right| \leq \int_0^{2\pi} \left| \frac{ (\log{\epsilon e^{i\theta} })^2}{(\epsilon e^{i\theta} +a)^2} \epsilon ie^{i\theta} \right| d\theta \\ \displaystyle =\int_0^{2\pi } \frac{\epsilon | (\log{(\epsilon e^{i\theta}) } )^2 |}{(a-\epsilon )^2} d\theta \to 0 \)
(ε→0)・・・③

R2では\( z=xe^{2\pi i} (x: R\to \epsilon) \)。特に
\( \log{z}=\log{|z|}+\arg{z} = \log{(x)}+2\pi i \)となることに注意

\(\displaystyle \int_{R_2} f(z)dz = \int_{R}^{\epsilon} \frac{(\log{(z)} +2\pi i)^2}{(z+a)^2} dz \)
となるから
\(\displaystyle \int_{R_1+R_2}f(z)dz = \int_{\epsilon}^R \frac{(\log{z})^2 -(\log{z})^2 -4\pi i \log{z} +4\pi^2 }{(z+a)^2} dz \\ = \displaystyle 4\pi^2 \int_{\epsilon}^R \frac{dz}{(z+a)^2} - 4\pi i \int_{\epsilon}^R \frac{\log{z}}{(z+a)^2} dz \)
・・・④

①から④をまとめると
\(\displaystyle 4\pi^2 \int_{\epsilon}^R \frac{dz}{(z+a)^2} - 4\pi i \int_{\epsilon}^R \frac{\log{z}}{(z+a)^2} dz \to \frac{4\pi^2 - (4\pi \log{a}) i }{a} \)
(R→∞,ε→0)
両辺の虚部をとると
\(\displaystyle \int_0^{\infty} \frac{\log{x}}{(x+a)^2}dx = \frac{\log{a}}{a} \)

ちなみに両辺の実部をとると
\(\displaystyle \int_0^{\infty} \frac{dx}{(x+a)^2} = \frac{1}{a} \)
も導けますね。
今回のように分子にlogがついた複素積分を計算すると,副産物としてlogがない積分も同時に求められることがあります。
つまり,試験問題で
\(\displaystyle \int f(x)\log{x} dx , \int f(x) dx \)
を求めよと問われた場合,左側だけ求めれば右も同時に求まる可能性が高いです。
右側の積分も複素積分の基本パターンの積分であることが多いので2回留数計算をしないといけないのか...って思いがちですが一発で出せるということを知っておきましょう。
(ただし左側は今回のように初見殺し級の難易度なので解けなかったら右側だけを素直に留数計算するハメになりますが...w)

いかがでしたか?これが大学生が通常習う複素積分のラスボスの計算になります。さすがに定期試験ではここまで要求されないと思いますが,院試験ではこのレベルが要求されたりしますので院試対策としてはやっておきたいところです。

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