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上野竜生です。今日は行列の対角化・ジョルダン標準形のお話をします。ただしその前に行列式固有値までの話が理解できていることが前提になります。

行列の対角化・ジョルダン標準形

次の行列Aを対角化せよ。また対角化する行列Pを求めよ。(つまり\( P^{-1}AP\)が対角行列となるPを求めよ)

こんな感じで聞かれます。このときの解き方について勉強しましょう。

手順1. Aの固有値と固有ベクトルを求める。(このとき固有ベクトルがどの固有値に対するものかを対応させておきましょう。)つまり,固有値λ1に対する固有ベクトルx1,・・・,固有値λnに対する固有ベクトルxnと言う風に求めておきましょう。

手順2. このとき対角行列と固有値は次の通りである。ただし行列で何も書かれていないところの成分は0である。
$$\begin{pmatrix} \lambda_1 &  & & & \\ & \lambda_2 & & \\ & & \ddots & \\ & & & \lambda_n \end{pmatrix} $$
$$ P=(x_1 x_2 \cdots x_n) $$

(各xiが縦ベクトルなのでこれでPがn×n行列になっています)

 

基本的にこれでOKですが実際に問題を解くとあれ?と思うことがあると思います。それについて述べていきます。

変則パターン1: 重解をもつ

この場合は上の基本通りでOKです。たとえばλ12だった場合,λ1に対する固有ベクトルをx1,x2とします。(どちらがx1でどちらがx2かはどちらでも良い)これで先ほどのPに代入すればOKです。

変則パターン2: 重解をもち,かつ固有ベクトルが足りない・・・

この場合は対角化できません。ジョルダン標準形に変形することになります。ジョルダン標準形とは次の形です。まずジョルダン細胞は次のように定義されます。

$$\begin{pmatrix} \lambda & 1 & & \\ &\lambda & 1 & \\ & & \ddots & \\ & & & \lambda \end{pmatrix} $$

つまり対角成分がすべて同じλで,その1つ右上がすべて1のものです。そしてジョルダン標準形とはジョルダン細胞を対角に並べたものです。

ジョルダン細胞の数は固有空間の次元の数(固有ベクトルの数)に等しいです。

一般にはジョルダン標準形を求めるのは大変ですが試験に出るような3次,4次の場合はいろんな条件からジョルダン標準形の可能性を絞っていくやり方が有効です。具体例でみていきましょう。

例題:対角化できるなら対角化する行列を与えて対角化せよ。できないならジョルダン標準形を求めよ。
(1)\(\begin{pmatrix} -11 & -8 \\ 28 & 19 \end{pmatrix} \)
答え固有多項式は
(x+11)(x-19)-28・(-8)
=x2-8x-209+224
=x2-8x+15
=(x-3)(x-5)
より固有値は3,5

固有値3に対する固有ベクトルを求める。
固有ベクトルを\(\vec{x}=\left( \begin{array}{c} a \\ b \end{array} \right)\)とし,\((A-3E)\vec{x}=0\)を解く(Eは単位行列)
\( (A-3E)\vec{x}\\
=\begin{pmatrix} -14 & -8 \\ 28 & 16 \end{pmatrix}\left( \begin{array}{c} a \\ b \end{array} \right)=\left( \begin{array}{c} -14a-8b \\ 28a+16b \end{array} \right)=\left( \begin{array}{c} 0\\ 0 \end{array} \right)\)
よって14a+8b=0であり,
\(\displaystyle \vec{x}=\left( \begin{array}{c} a \\ b \end{array} \right)=\left( \begin{array}{c} a \\ -\frac{7}{4}a \end{array} \right)=\frac{a}{4}\left( \begin{array}{c} 4 \\ -7 \end{array} \right) \)
よって固有値3に対する固有ベクトルは\(\left( \begin{array}{c} 4 \\ -7 \end{array} \right) \)

同様にして固有値5に対する固有ベクトルは\(\left( \begin{array}{c} -1 \\ 2 \end{array} \right) \)よって対角行列は固有値を対角成分に並べたものだから
\(\begin{pmatrix} 3 & 0 \\ 0 & 5 \end{pmatrix} \)
対角化する行列は対応する固有ベクトルをならべたものだから
\( \begin{pmatrix} 4 & -1 \\ -7 & 2 \end{pmatrix} \)

(2) \(\begin{pmatrix} 6 & 9 \\ -4 & -6 \end{pmatrix} \)
答え固有多項式は(x-6)(x+6)+36=x2
固有値は0(重解)
固有値0に対する固有ベクトルは\( \left( \begin{array}{c} 3 \\ -2 \end{array} \right)\)
の1つしかなく対角化はできない。
よってジョルダン標準形にする。2×2行列で対角化不能なジョルダン標準形は1つしかない。よって
\(\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} \)
が答え。

固有ベクトルが1つしかないのでジョルダン細胞も1つしかありません。

一般にやるとすごく大変なのでこのように絞り込むのが楽です。

(3) \(\begin{pmatrix} 3 & 0 & 1 \\ -1 & 2 & -1 \\ -1 & 0 & 1 \end{pmatrix} \)
答え固有多項式は
\( det(xE-A)=det\begin{pmatrix} x-3 & 0 & -1 \\ 1 & x-2 & 1 \\ 1 & 0 & x-1 \end{pmatrix} \\
=(x-3)(x-2)(x-1)+(x-2)\\
=(x-2)(x^2-4x+4) \\
=(x-2)^3\)
となり固有値は2(重解)

\(A-2E=\begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 \\ -1 & 0 & -1 \\ -1 & 0 & -1 \end{pmatrix}\)
より固有ベクトルは\(\left( \begin{array}{c} 0 \\ 1 \\ 0 \end{array} \right) ,\left( \begin{array}{c} 1 \\ 0 \\ -1 \end{array} \right) \)のみで対角化不能。ジョルダン標準形を求める。固有ベクトルが2本しかないのでジョルダン細胞も2つ。合計3次で2つのジョルダン細胞なので(2次+1次)にわけるしかなく,ジョルダン標準形は次の形しかありえない。
\( \begin{pmatrix} 2 & 1 & 0  \\ 0 & 2 & 0 \\ 0 & 0 & 2 \end{pmatrix} \)

ちなみに\(\begin{pmatrix} 2 & 0 & 0 \\ 0 & 2 & 1 \\ 0 & 0 & 2 \end{pmatrix} \)は答えの形と同じとみなされます(どちらも1次のジョルダン細胞+2次のジョルダン細胞の2つで構成されているため順番は関係ない)。

 

行列は正直コンピュータに入力するのが大変なので手計算の人は楽ですね・・・。

ここまでできれば大学1年の数学,数検1級の線形代数はかなりできたといえるでしょう。

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