上野竜生です。前回はeの複素数乗の計算とLogまでは計算しました。今回は複素数の複素数乗と,複素数の三角関数を扱います。一応定義できるということだけ知っていれば実際に計算する機会はほぼないと思うのでここはそれほど重要ではありません。
偏角やeの複素数乗などのことが理解できていない方はこちらから復習しましょう。
上野竜生です。今回は複素関数論をやるうえで必要不可欠な複素数の基礎知識を紹介します。具体的には実部・虚部・絶対…
複素数の複素数乗
\(\alpha, \beta \)が複素数のとき,\(\alpha^{\beta} \)を計算する。
このやりかたは,まず,\(\alpha= e^{(x+iy) } \)の形に直す。つまり\(x+iy=\)Log(α)
そのあとで\( \alpha^{\beta}={(e^{(x+iy)})}^{\beta} = e^{(x+iy)\beta} \)として計算する。
まとめると
\( \alpha^{\beta} = e^{\beta \log{\alpha}}\) Logは大文字
x+iyを求める時に主値だけを使うことが多いので\(\alpha^{ \beta} \)は主値だけを答えさせることが多い。(そもそも求めさせることが少ないですが...)
例題1
(1)\( \alpha=\sqrt{3}-i \)とする。\( \alpha^i \)の主値と\( i^{\alpha} \)の主値を求めよ。
(2)\( i^i \)の主値を計算せよ。
\(\displaystyle \alpha^i = e^{( \log{2}-\frac{\pi}{6}i )i}=e^{(\frac{\pi}{6}+i\log{2})}\)
\(\displaystyle =e^{\frac{\pi}{6}} \{ \cos{(\log{2})}+i\sin{(\log{2})} \} \)・・・(答)
\( i=e^{\frac{\pi}{2}i} \)より
\( i^{(\sqrt{3}-i)} =e^{\frac{\pi}{2}i(\sqrt{3}-i)}=e^{(\frac{\pi}{2}+\frac{\sqrt{3}}{2}\pi i )}\\ = e^{\frac{\pi}{2}} ( \cos{(\frac{\sqrt{3}}{2}\pi)}+i\sin{(\frac{\sqrt{3}}{2}\pi)} ) \)
(2)\(i^i= e^{\frac{\pi}{2}i \cdot i }=e^{-\frac{\pi}{2}} \)
iのi乗は実数になるのは驚きですね。
複素数の三角関数
オイラーの公式よりθが実数のとき
\( e^{i\theta}=\cos{\theta}+i\sin{\theta}\)・・・①
が成り立つ。①のθに-θを代入すると
\( e^{- i\theta}=\cos{\theta}-i\sin{\theta}\)・・・②
①+②や①ー②を計算して整理することで
\(\displaystyle \cos{\theta} = \frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta} }{2} \)
\(\displaystyle \sin{\theta} = \frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta} }{2i} \)
が成り立つ。これのθに複素数zを代入したものをsin,cosの定義とする。つまり
\(\displaystyle \cos{z} = \frac{e^{iz}+e^{-iz} }{2} \)
\(\displaystyle \sin{z} = \frac{e^{iz}-e^{-iz} }{2i} \)
なお,\(\displaystyle \tan{z}=\frac{\sin{z}}{\cos{z}} \)と定義します。
導出背景も知っていると忘れても復元できるので復元できる程度に解説はしましたが,結果を丸暗記したい人のために結果だけまとめてもう1度書いておきます。
定義まとめ
\( \log{(x+iy)}=\log{|x+iy|} +i\arg{(x+iy)} \)(左辺がLogなら右辺もArg)
\( \alpha^{\beta} = e^{\beta \log{\alpha}} \) 通常は主値をとるので右辺のlogはLogであることが多い
\(\displaystyle \cos{z} = \frac{e^{iz}+e^{-iz} }{2} \)
\(\displaystyle \sin{z} = \frac{e^{iz}-e^{-iz} }{2i} \)
\(\displaystyle \tan{z}=\frac{\sin{z}}{\cos{z}} \)
例題2
(1)\( \sin{(x+yi)} \)を計算せよ。(実部と虚部を求めて「実部+i×虚部」の形で表せ)
(2)\( |\sin{(x+yi)}|=1 \)となるようなx,yの条件を求めよ。特に\( |\sin{(x+yi)}|=1 \)を満たす中でyが最も大きいもののyの値を求めよ。
答え(1)\(\displaystyle \sin{(x+yi)}= \frac{e^{-y+ix} -e^{y-ix}}{2i} \\ = \displaystyle \frac{1}{2i} \{ e^{-y}(\cos{x}+i\sin{x})-e^{y} (\cos{x}-i\sin{x}) \} \\ =\displaystyle \frac{e^y + e^{-y}}{2} \sin{x}+ i \frac{e^y-e^{-y}}{2} \cos{x} \\ = \sin{x}\cosh{y}+ i \cos{x}\sinh{y} \)
\(\cos{(x+iy)}= \cos{x}\cosh{y}-i\sin{x}\sinh{y} \)となります。
\(\sin^2{x} \cosh^2{y} + \cos^2{x}\sinh^2{y} =1 \)
ここで\( \cosh^2{y}=\sinh^2{y}+1 \)を利用すると
\(\sin^2{x} \sinh^2{y} + \sin^2{x} + \cos^2{x}\sinh^2{y} = 1 \)
つまり
\(\sinh^2{y}=\cos^2{x} \)となるから
\(\sinh{y} = \frac{e^y-e^{-y}}{2} = \pm \cos{x} \)
両辺に\( 2e^y \)をかけると
\( (e^y)^2 -1 =\pm 2e^y \cos{x} \)
\( e^y=A \)とおくと\( A^2 \pm 2\cos{x} A -1= 0 \)
よって\( A=e^y=\pm \cos{x} \pm \sqrt{\cos^2{x}+1} \)
ここでA>0だから2つめの±は+しかとれない。よって
\( y=\log{(\pm \cos{x} + \sqrt{\cos^2{x}+1})} \)
特に最大となるのはcosx=1のときで\( y=\log{(1+\sqrt{2})} \)
|sin(x+iy)| ≦1となるような(x,y)の範囲を図示すると下のようになります。
つまり|sinz|≦1は常には成り立ちません。|cosz|≦1も同様に常には成り立ちません。
ちなみに今まで習ってきた三角関数や対数関数の性質は”ほとんど”成り立ちます。もし厳密にイコールが成り立たなくても,偏角の部分が2nπずれたり,主値の範囲におさまってないとかそういう部分の誤差が生じるだけであることがほとんどです。
(例:Log(z2)=2Log(z)は厳密には成り立たない。
Log(z)=\( \log{|z|}+i \)Arg(z)を認めて左辺と右辺を計算すると
左辺=\( \log{|z|^2}+i \)Arg(z2),右辺=\( 2\log{|z|}+2i \)Arg(z)
実部は実数関数の対数の性質より等しい。虚部はだいたい等しいが,Argの範囲によっては2πずれていることもある。例えば偏角の範囲を-π<Arg(z)≦πに制限し,zの偏角が0.9πだとすると左辺の虚部は,偏角1.8πの複素数にしてから主値に制限するので-0.2π。右辺の虚部は1.8πとなる。この程度の誤差はよく起きます。
ですがこのような”実数では成り立ったけど複素数では厳密に成り立つか怪しい性質”を用いて複素数の計算をやりなさいという問題はほぼ見かけないので省略します。もし厳密に成り立つか問われた時は虚部の2nπのズレに注意して一致するか確かめましょう。
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