上野竜生です。今回はチェビシェフの多項式の応用問題として,|x|≦1の範囲で|f(x)|の最大値をできるだけ小さくするようなn次多項式の問題を扱います。初見ではほぼ不可能なので1回見ておきましょう。誘導がなければまず解けないでしょう。
例題1
(1)-1≦x≦1の範囲を動くとき|f(x)|の最大値を求めよ。
(2)\( g(x)=x^4+ax^3+bx^2+cx+d \)とする。-1≦x≦1の範囲を動くとき,|g(x)|の最大値は(1)で求めたもの以上の値であることを示せ。
\( f’(x)=0 \)を解くと\(\displaystyle x=0, \pm \frac{1}{\sqrt{2}} \)
よって増減表は下の通り
\begin{array}{c|ccccccccc} x & -1 & \cdots & -\frac{1}{\sqrt{2}} & \cdots & 0 & \cdots & \frac{1}{\sqrt{2}} & \cdots & 1 \\ \hline f’(x) & & - & 0 & + & 0 & - & 0 & + & \\ \hline f(x) & \frac{1}{8} & \searrow & -\frac{1}{8} & \nearrow & \frac{1}{8} & \searrow & -\frac{1}{8} & \nearrow & \frac{1}{8} \end{array}
|f(x)|の最大値は\( \frac{1}{8} \) (\(x=0,\pm \frac{1}{\sqrt{2}} , \pm 1 \)のとき)
(2)-1≦x≦1での|g(x)|の最大値が\( \frac{1}{8} \)未満であると仮定する。
つまり,-1≦x≦1で\( -\frac{1}{8}<g(x)<\frac{1}{8} \)をとると仮定する。
\( h(x)=f(x)-g(x) \)とおくと
\( h(-1)=\frac{1}{8} -g(x) >0 , \\ h(-\frac{1}{\sqrt{2}} )=-\frac{1}{8} -g(x)<0 , \\ h(0)=\frac{1}{8}-g(x)>0 ,\\ h(\frac{1}{\sqrt{2}} ) = -\frac{1}{8}-g(x)<0 , \\ h(1)=\frac{1}{8}-g(x)>0 \)
であるから中間値の定理より
\( -1<x<-\frac{1}{\sqrt{2}} , -\frac{1}{\sqrt{2}}< x<0, 0<x< \frac{1}{\sqrt{2}} , \frac{1}{\sqrt{2}} <x<1 \)の範囲にそれぞれ少なくとも1つの実数解をもつ。
つまり,h(x)=0は少なくとも4つの実数解をもつ。
しかし,h(x)は3次式なのでh(x)=0の実数解の個数は最大でも3個。これは矛盾
よって-1≦x≦1での|g(x)|の最大値は\( \frac{1}{8} \)以上である。
最高次の項がx4の4次式の場合,|f(x)|が最小になるのはこの例題のf(x)なんですね。
他の次数の場合はどうなるかというとチェビシェフの多項式のときにそうなります。つまり,cosのn倍角の公式のときです。
\( f_1(x)=x,\\ f_2(x)=2x^2-1 ,\\ f_3(x)=4x^3-3x,\\ f_4(x)=8x^4-8x+1 \)
とおくと\( \cos{n\theta}=f_n(\cos{\theta}) \)が成り立ちます。このときに最小になるのです。
例題1では\( x=0, \pm 1 , \pm \frac{1}{\sqrt{2}} \)に着目しました。x=0,±1はいいとして,\(\pm \frac{1}{\sqrt{2}} \)に着目するなんてどう考えればいいんだよ!この値をもってきた理由は!?ってなるのも無理はありません。
実はこの値は\( \cos{0} , \cos{\frac{\pi}{4}} , \cos{\frac{\pi}{2}}, \cos{\frac{3\pi}{4}}, \cos{\pi} \)に対応しているといえば理解できるでしょう。よって万が一5次式で同様の証明をしろ!ってなると\(x=\cos{0}, \cos{\frac{\pi}{5}} , \cos{\frac{2\pi}{5}} , \cos{\frac{3\pi}{5}} , \cos{\frac{4\pi}{5}} ,\cos{\pi} \)に着目しろ!ということになります。
次の問題は東大の問題です。例題1でもかなり難問なのにさらにひねった超難問です。
例題2
(i) h(1)=1,h(-1)=-1
(ii) 区間-1<x<1で極大値1,極小値-1をとる。
このとき
(a)h(x)を求めよ。
(b)3次関数\( f(x)=ax^3+bx^2+cx+d \)が,区間-1<x<1で-1<f(x)<1を満たすとき,|x|>1なる任意の実数xに対して|f(x)|<|h(x)|を示せ。
(a)はよくある3次関数の係数決定問題だから楽勝で,(b)は(a)でうまくp,q,r,sの係数がわかればa,b,c,dについての不等式が得られてそこからうまく導く...と考えてしまうと絶望になります。実際(a)もそれほど簡単ではありません。どちらも難問です。
とりあえず普通の発想で(a)を解けるところまで解いてみます。
(a)
\( h(1)=1\)より\( p+q+r+s=1 \)
\( h(-1)=-1 \)より\( -p+q-r+s=-1 \)
よって\( p+r=1 ,q+s=0 \)
つまり,\( h(x)=px^3+qx^2+(1-p)x-q \)
\( h’(x)=3px^2 + 2qx + (1-p) \)
\( h’(x)=0 \)の解をα,β(α<β)としてh(α)=1,h(β)=-1を解く...
(ここからの計算が複雑すぎて詰む)
ということで別の方針で考えます。極大値とh(1)が一致しているのでh(x)-1=0を考えると解がα,α,1となることに注意します。
\( h(x)-1=p(x-1)(x-\alpha)^2 \)・・・①
\( h(x)+1=p(x+1)(x-\beta)^2 \)・・・②
②ー①より
\( p(x+1)(x-\beta)^2-p(x-1)(x-\alpha)^2=2 \)・・・③
③の左辺を展開すると
よって③がxについての恒等式だから
\( 2p(\alpha - \beta +1 )= 0 , p(\beta^2 - \alpha^2 -2\alpha -2\beta )=0 , p(\alpha^2 +\beta^2)=2 \)
h(x)は3次関数より,p≠0だから第1式より
\( \alpha=\beta -1 \)
第2式より
\( (\beta+\alpha)(\beta-\alpha)-2(\beta+\alpha) \\ = (\beta+\alpha)(\beta-\alpha-2) =0 \)
\( \alpha=\beta-1 \)より,\(\beta- \alpha-2 \neq 0 \)だから
\(\beta+\alpha=0 \)
よって\(\displaystyle \alpha=-\frac{1}{2} , \beta= \frac{1}{2} \)
これを第3式に代入するとp=4
よってこれらを①または②に代入すると\( h(x)=4x^3-3x \)
(b)|f(x)|<|h(x)|を示すには
\( f(x)^2 < h(x)^2 \)
つまり\( (h(x)+f(x))(h(x)-f(x))>0 \)を示せばよい。
そこで\( g_1(x)=f(x)+h(x) \)とおく。
\( h(-1)=-1, h(-\frac{1}{2})=1, h(\frac{1}{2})=-1 , h(1)=1 \)
-1<x<1で-1<f(x)<1であることに注意すると
\( g_1(-1)<0 , g_1(-\frac{1}{2})>0 , g_1(\frac{1}{2})<0 , g_1(1)>0 \)
よって中間値の定理より
\(-1<x<-\frac{1}{2} , -\frac{1}{2}<x<\frac{1}{2} , \frac{1}{2}<x<1 \)
の範囲にそれぞれ少なくとも1つの実数解をもつ。・・・☆
\( g_1(x) \)は高々3次式だから\( g_1(x)=0 \)の実数解は最大でも3つ。
しかし,☆より-1<x<1の範囲に3つ存在するので|x|>1の範囲には実数解は存在しない。
\(g_1(1)>0\)よりx>1のとき,\( g_1(x)>0 \)が常に成り立ち,\(g_1(-1)<0\)よりx<-1のときは\( g_1(x)<0 \)が常に成り立つ。
同様にすると
\( g_2(x)=h(x)-f(x)\)とおいたとき,x>1のとき\( g_2(x)>0 \)が常に成り立ち,x<-1のときは\( g_2(x)<0 \)が常に成り立つ。
よって\( (h(x)+f(x))(h(x)-f(x))>0 \)が成立するから題意は成立。
いかがでしたか?このタイプの問題は超難問なので難関大学の中のさらに難問として出題されるレベルです。証明方法が独特で,特に他にはあまり活かしにくい論法なのでこのタイプのためだけに覚えるのもなぁ...といったレベルです。
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