上野竜生です。コーシーシュワルツの不等式の応用例を紹介します。教科書レベルからは少し外れるので,これを使わないと解けない問題はほぼ出ませんが,知っておいたら有利な問題はたまにあります。使い方に慣れないとミスしやすいので例題を見て行きましょう。
コーシーシュワルツの不等式
\( (a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2) \geq (ax+by+cz)^2 \)
等号成立はa:b:c=x:y:zのとき。
上野竜生です。コーシーシュワルツの不等式は難関大学だとたまに出てきたりします。知っておくと便利ですし,内積と結…
今回はこれを応用した問題を紹介します。コーシーシュワルツの不等式の適用の練習として解く方法&あくまでも通常の入試としてコーシーシュワルツの不等式を使わずに解く方法どちらもできることが理想です。
例題1
\(\displaystyle \frac{1}{x}+\frac{2}{y}+\frac{3}{z}=1 \)
を満たすとき\( P=(x-1)(y-2)(z-3) \)の最小値を求めよ
ちなみにこれは文系数学最難関ともいっていい早稲田大学商学部の大問1で実際に出題された問題です。大問1は小問集合で答えのみを書く問題です。このときは答えさえ合えばよいタイプだったのでまずは答えだけでも予想しましょう。そのうえで余裕があれば記述できるようにしましょう。
\(\displaystyle \frac{yz+2zx+3xy}{xyz}=1 \)
つまりxyz=3xy+yz+2xz・・・①
\( P=xyz-(yz+2zx+3xy)+6x+3y+2z-6 \\ = 6x+3y+2z-6 \)・・・②
コーシーシュワルツの不等式
\( (A^2+B^2+C^2)(X^2+Y^2+Z^2) \geq (AX+BY+CZ)^2 \)
に\(\displaystyle A=\sqrt{\frac{1}{x}} , B=\sqrt{\frac{2}{y}} , C=\sqrt{\frac{3}{z}} , X=\sqrt{6x}, Y=\sqrt{3y} , Z=\sqrt{2z} \)
を当てはめて適用すると
\(\displaystyle (\frac{1}{x}+\frac{2}{y}+\frac{3}{z})(6x+3y+2z) \geq (\sqrt{6}+\sqrt{6}+\sqrt{6})^2 =54 \)
問題の仮定より
\(\displaystyle \frac{1}{x}+\frac{2}{y}+\frac{3}{z}=1 \)
なので
\( 6x+3y+2z \geq 54 \)
つまり\( P \geq 48 \)
等号成立は\( A:B:C=X:Y:Z \)のとき,つまり
\(\displaystyle \frac{\sqrt{6x}}{ \sqrt{\frac{1}{x}}}=\frac{\sqrt{3y}}{ \sqrt{\frac{2}{y}}}=\frac{\sqrt{2z}}{ \sqrt{\frac{3}{z}}} \)
のとき。これを計算すると
\(\displaystyle x=\frac{y}{2}=\frac{z}{3} \)のときであり,問題の仮定とあわせると
\(\displaystyle x=\frac{y}{2}=\frac{z}{3}=3 \),つまりx=3,y=6,z=9のときに成立する。
以上よりx=3,y=6,z=9のときPは最小値48をとる。
答えだけで良ければ等号成立条件を確認し忘れても満点ですが,記述式なら減点されます。それにすべての等号を同時に満たすx,y,zが存在しないパターンなら誤った結果が導き出されることもあるのでできるだけ確認しましょう。
別解1 相加相乗平均の関係を利用する。
相加相乗平均の関係より
\( \displaystyle \frac{1}{x}+\frac{2}{y}+\frac{3}{z} \geq 3 \sqrt[3]{\frac{1}{x} \cdot \frac{2}{y} \cdot \frac{3}{z} } \)
よって\( \sqrt[3]{xyz} \geq 3 \sqrt[3]{6} \)
さらに相加相乗平均の関係より
\(\displaystyle 6x + 3y +2z \geq 3\sqrt[3]{36xyz} \geq 3\sqrt[3]{36} \cdot 3\sqrt[3]{6} =54 \)
よってP+6≧54となるのでP≧48
等号成立条件はどちらの不等式も6x=3y=2zのとき
問題の仮定とあわせるとx=3,y=6,z=9のとき最小値48をとる。
別解2-1 答えだけを予測する
正の実数x,y,zが\( \displaystyle \frac{1}{x}+\frac{2}{y}+\frac{3}{z} =1 \)を満たすとき\( P+6=6x+3y+2z \)の最小値を求める方針は本解と同じ。
\( x=\alpha, y=2\beta , z=3\gamma \)とおくと問題は
正の実数α,β,γが\(\displaystyle \frac{1}{\alpha}+\frac{1}{\beta}+\frac{1}{\gamma} =1 \)・・・(★)を満たすとき\( P=6(\alpha+\beta+\gamma)-6 \)の最小値を求める問題になる。
(★)の美しい対称式を見る限りおそらく問題になるのはα=β=γのときだろう。
このとき\(\displaystyle \alpha=\beta=\gamma=3 \)になるからP=48
答えだけで良いということをフルに活かした答えです。出題者は係数を2とか3にして対称性を崩して当てずっぽう正解を阻止しようとしてますが,ちょっと置き換えれば対称性が戻ってくるので根拠が不十分でも正解を導き出せるようになります。試験本番ではこういう邪道的な解法でも点数を得られたら勝ちなので諦めずに頑張りましょう。
別解2-2 「予測」からの厳密な解答
「正の実数α,β,γが\(\displaystyle \frac{1}{\alpha}+\frac{1}{\beta}+\frac{1}{\gamma} =1 \)・・・(★)を満たすとき\( P=6(\alpha+\beta+\gamma)-6 \)の最小値」
を求める方針は別解2-1と同じ。(-1)次式の和が与えられたときの1次式の和を求めるのであれば,その2つをかければ何か定数っぽくならないかという発想です。
等号成立はα=β=γのとき
\(\displaystyle \frac{1}{\alpha}+\frac{1}{\beta} + \frac{1}{\gamma} =1 \)だから
\( \alpha +\beta +\gamma \geq 9 \)
となり,\( P=\displaystyle 6(\alpha + \beta + \gamma)-6 \) の最小値は48
どれもなかなか難しいですが絶望的にひらめかないわけではないので難関大学を狙ってる人はできるようにしたいところです。
例題2
すべての正の実数x,yに対し
\( \sqrt{x}+\sqrt{y} \leq k \sqrt{2x+y} \)
が常に成り立つような定数kの最小値を求めよ。
これをコーシーシュワルツの不等式で瞬殺するには少し工夫がいりそうです。パズルのつもりで少し考えてみましょう。
コーシーシュワルツの不等式をもう一度書いておくとA,B,X,Yはすべて正の実数とするとき
\( \sqrt{A^2+B^2} \sqrt{X^2+Y^2} \geq AX+BY \)
等号成立はA:B=X:Y
解1 コーシーシュワルツの不等式
見比べると\( AX=\sqrt{x} , BY=\sqrt{y} \)になるようにしたいですね。
しかも\( X^2+Y^2=2x+y \)になるようにしたいので
\(\displaystyle X=\sqrt{2x} ,Y=\sqrt{y} , A=\frac{1}{\sqrt{2}} , B=1 \)とすればよさそうです。
ここから答案を作ります。
\( \sqrt{A^2+B^2} \sqrt{X^2+Y^2} \geq AX+BY \)
に\(\displaystyle X=\sqrt{2x} ,Y=\sqrt{y} , A=\frac{1}{\sqrt{2}} , B=1 \)
を代入すると
\(\displaystyle \sqrt{\frac{1}{2}+1} \sqrt{2x+y} \geq \sqrt{x}+\sqrt{y} \)
つまり
\(\displaystyle \sqrt{x}+\sqrt{y} \leq \frac{\sqrt{6}}{2} \sqrt{2x+y} \)
が成立する。つまり\(\displaystyle k=\frac{\sqrt{6}}{2} \)のときは成立する。
等号成立はA:B=x:yのとき,つまりx:y=1:4のとき。たとえばx=1,y=4とすると等号が成立する。つまりkを\(\displaystyle \frac{\sqrt{6}}{2} \)より小さくするとx=1,y=4のときに不等式が成立しなくなる。
よってkの最小値は\(\displaystyle \frac{\sqrt{6}}{2} \)
解2 微分(数IIIを使います)
kを分離する(右辺がただのkになるように左辺を整理する)
→すると左辺の最大最小問題に帰着される。
→しかし2変数。でも分母分子は同じ次数(どちらも0.5乗どうし)なので分母分子をうまく割り算すれば1変数になる
→1変数関数の最大最小問題を解く
\(\displaystyle \frac{\sqrt{x}+\sqrt{y}}{\sqrt{2x+y}} \leq k \)
分母分子を\(\sqrt{y} \)で割ると
\(\displaystyle \frac{\sqrt{\frac{x}{y}}+1}{\sqrt{2\frac{x}{y} +1}} \leq k \)
\(\displaystyle t=\frac{x}{y} \)とおくと
\(\displaystyle \frac{1+\sqrt{t} }{ \sqrt{2t+1} } \leq k\)・・・(★)
よってtが正の実数を動くときの(★)の左辺の最大値を求めればよい。
\( \displaystyle f(t)=\frac{1+\sqrt{t}}{\sqrt{2t+1}} \)
\( \displaystyle f’(t)= \frac{ \frac{1}{2\sqrt{t}} \sqrt{2t+1} - \frac{2}{2\sqrt{2t+1}} (1+\sqrt{t}) }{2t+1} \\ = \displaystyle \frac{2t +1 -2\sqrt{t}-2t}{2(2t+1) \sqrt{t} \sqrt{2t+1} } \\ = \displaystyle \frac{1 -2\sqrt{t}}{2(2t+1) \sqrt{t} \sqrt{2t+1} } \)
よって増減表は以下の通り。
\begin{array}{c|cccc} t & 0 & \cdots & \frac{1}{4} & \cdots \\ \hline f’(t) & & + & 0 & - \\ \hline f(t) & (1) & \nearrow & \frac{\sqrt{6}}{2} & \searrow \end{array}以上よりf(t)のt>0における最大値は\( \displaystyle f(\frac{1}{4})= \frac{\sqrt{6}}{2} \)なので求めるkの最小値は\(\displaystyle \frac{\sqrt{6}}{2} \)
「\(\displaystyle t=\frac{1}{4} \)で等号成立。つまりx:y=1:4のとき等号成立。」
解3 置き換え
[方針]~(★)式導出までは解2と同じ。
この問題は文系でも出題されているのでなんとか数IIIの微分をせずにf(t)の最大値を求めます。(★)導出までは数IIIの知識を使っていないことに注意してください。
「\(\displaystyle \frac{1+\sqrt{t} }{ \sqrt{2t+1} } \leq k\)・・・(★)
よってtが正の実数を動くときの(★)の左辺の最大値を求めればよい。」
まで解2と同じ。
\( t=(u-1)^2 \)なのでこれを(★)に代入すると
\(\displaystyle \frac{u}{\sqrt{ 2u^2-4u+3 } } = \frac{1}{\sqrt{3 \frac{1}{u^2} - 4 \frac{1}{u} +2}} \)
\(\displaystyle v=\frac{1}{u} \)とおくと0<v<1であり,(★)は
\(\displaystyle \frac{1}{\sqrt{ 3v^2 -4v +2 }} \)
とかける。分母が最小になるとき(★)は最大だから
\( 3v^2-4v+2 \)が0<v<1で最小になるとき(★)は最大になる。
\(\displaystyle 3v^2-4v+2=3(v-\frac{2}{3})^2 +\frac{2}{3} \)
なので\(\displaystyle v=\frac{2}{3} \)のとき(★)の最大値は
\(\displaystyle \frac{1}{\sqrt{\frac{2}{3}}} = \frac{\sqrt{6}}{2} \)
よってこれが求めるkの最小値である。
微分のできない文系の受験生にはなかなか出にくい置き換えを要求していてさすが東大だなぁ...と思っていましたが文系でも十分思いつくような解法がまだ存在するので紹介します。
解4 判別式
両辺はともに正なので2乗すると
\( x+y+2\sqrt{xy} \leq k^2 (2x+y ) \)
つまりすべての実数x,yに対し
\( (2k^2-1)x - 2\sqrt{xy} + (k^2-1)y \geq 0 \)
が成り立てばいい。両辺をy(>0)で割って
\(\displaystyle (2k^2-1) \frac{x}{y} - 2\sqrt{\frac{x}{y}} + (k^2-1) \geq 0 \)
が成り立てばいい。\(\displaystyle t=\sqrt{\frac{x}{y}} \)とおくとt>0なのですべての正の数tに対し
\(\displaystyle (2k^2-1)t^2 - 2t + (k^2-1) \geq 0 \)が成り立てばいい。・・・(*)\( 2k^2-1 < 0 , 2k^2-1=0 \)のときは十分大きなtに対し(*)が成立しないので不適。
\( 2k^2-1>0 \)のときtについての2次関数
\(\displaystyle (2k^2-1)t^2 - 2t + (k^2-1) \)の軸は\( \displaystyle t= \frac{1}{2k^2-1} >0 \)なので最小値は2次関数の頂点のy座標に等しい。これが0以上であればいいから判別式≦0であればよい。判別式をDとすると
\(D/4= 1-(2k^2-1)(k^2-1) \leq 0 \)
より
\( 2k^4 -3k^2 \geq 0 \)
k>0より\(\displaystyle k^2 \geq \frac{3}{2} \)
\(\displaystyle k \geq \frac{\sqrt{6}}{2} \)
等号が成立するときは判別式=0なので(*)の等号が成立し,もとの問題の不等式の等号も成立する。よって最小値は\(\displaystyle k = \frac{\sqrt{6}}{2} \)
これなら文系でも十分到達可能でしょう。コーシーシュワルツの不等式を無断で使ってよいかはグレーゾーンなのでコーシーシュワルツの不等式必須の問題はほぼ出ません。しかし,別の方法で解くとなるとかなりの数学力がいることもあるので知っておいた方が近道できるのも事実です。臨機応変に対応できるように両方の解法でできるか試しておくと実力が付きます。
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