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上野竜生です。今回は留数定理と,実関数の積分に応用する例を紹介します。応用パターンはたくさんありますが,まずはこれからの応用の基礎となる2パターンを紹介します。応用の基礎という言い方が不自然かもしれませんが,長くなったので典型的な基礎パターンと,応用の応用とで2ページに分割します。

留数定理

単純閉曲線Cとその内部Dにおいてf(z)はD内の点z1,z2,・・・,zmを除いて正則とする。このとき
\(\displaystyle \int_C f(z)dz = 2\pi i \sum_{k=1}^n Res(f,z_k) \)
留数定理

少し前の段階で次のことを述べました:
実数の積分では積分区間のスタートとゴールが同じならその積分は0である。
複素数の積分では積分区間のスタートとゴールが同じであっても積分経路はいろいろとれるし,経路の取り方によっては積分結果が0にならないこともある。

この定理は積分する関数がほとんど正則なとき,どういう経路なら積分結果が0で,どういうときなら0でないか,特に0でないとするなら積分結果はいくらかがわかる,かなり強力な定理です。
実際にこの定理を使うと,今まででは計算が難しかった実数関数の積分もわかります。難しいのはどういう積分経路に対して適用すれば実数関数の積分ができるかを見極めることです。置換積分を習った時,こういう形の時はこれをtとおく,というパターンを何個か学習しました。同じように,複素積分でもこういう形の時はこれを積分経路にする,というパターンがあります。
パターン数はそれなりに多くありますが,その中でも最も基礎的な2つを紹介します。

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例題1

\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} \frac{dx}{x^4+x^2+1} \)を求めよ。

方針としては下のような経路で計算します。
まずC1+C2の積分経路での値は留数定理から求められます。
次にC1の積分経路のR→∞の極限が0になることを示します。
するとC2の経路での積分は留数定理の結果で求めた値と一致するということになります。それぞれのステップでこれまで習ってきたことをフル活用するので問題はたった1つの数式でもかなりの行数を使って解答することになります。しかし出題頻度はほぼ100%なので捨てるわけにはいきません。必ず理解しましょう。

答え例題1
図のような半円の経路を考える。円周の部分をC1,実軸の部分をC2とする。
C1+C2で囲まれる領域の中にある極を求める。
\( x^4+x^2+1=0 \)を解くと
\( (x^2+1)^2 - x^2=(x^2+x+1)(x^2-x+1)=0 \)
より\(\displaystyle x=\frac{-1\pm \sqrt{3}i }{2} , \frac{1 \pm \sqrt{3}i}{2} \)
よって\(\displaystyle \alpha=\frac{-1 + \sqrt{3}i }{2} , \beta=\frac{1+\sqrt{3}i}{2} \)とおくと,Rが十分大きいときはα,βが領域内にある極である。
よって留数定理より
\(\displaystyle \int_{C_1+C_2} \frac{dz}{z^4+z^2+1}=2\pi i (Res(\alpha)+Res(\beta)) \)
ここで
\(\displaystyle Res(\alpha)=\lim_{z\to \alpha} (z-\alpha)\frac{1}{z^4+z^2+1} \\ = \displaystyle \lim_{z\to \alpha} \frac{z-\alpha}{(z-\alpha)(z-\bar{\alpha})(z^2-z+1) } = \frac{1}{(\alpha-\bar{\alpha}) (\alpha^2 -\alpha+1)} \)
同様に
\(\displaystyle Res(\beta)=\lim_{z\to \beta} (z-\beta)\frac{1}{z^4+z^2+1} \\ = \displaystyle \lim_{z\to \beta} \frac{z-\beta}{(z-\beta)(z-\bar{\beta})(z^2+z+1) } = \frac{1}{(\beta-\bar{\beta}) (\beta^2 +\beta+1)} \)
ここで,\(\alpha-\bar{\alpha}= \beta-\bar{\beta}=\sqrt{3}i \)と,
\( \alpha^2+\alpha+1=0 \)つまり\(\alpha^2-\alpha+1=-2\alpha \),
\( \beta^2-\beta+1=0 \)つまり\(\beta^2+\beta+1=2\beta \)
を用いると
\(2\pi i (Res(\alpha)+Res(\beta)) \\ = \displaystyle 2\pi i \left(\frac{1}{-2\alpha \cdot \sqrt{3}i } + \frac{1}{2\beta \cdot \sqrt{3}i } \right) = \pi \left( \frac{1}{-\sqrt{3}\alpha}+\frac{1}{\sqrt{3} \beta}\right) \\ =\displaystyle \frac{\pi}{\sqrt{3}} \cdot \frac{\alpha - \beta}{\alpha \beta} \)
\(\alpha \beta=-1 , \alpha- \beta=-1 \)なので
\(\displaystyle \int_{C_1+C_2} \frac{dz}{z^4+z^2+1}=\frac{\pi}{\sqrt{3}} \)
次にC1での積分を考える。
C1の経路は\( z=Re^{i\theta} \)でθは0からπまで動くので
\(\displaystyle \int_{C_1} \frac{dz}{z^4+z^2+1}=\int_0^{\pi} \frac{1}{R^4 e^{4i\theta} + R^2 e^{2i\theta} +1} \cdot Rie^{i\theta} d\theta \)
となるので
\(\displaystyle \left| \int_{C_1} \frac{dz}{z^4+z^2+1} \right|= \left| \int_0^{\pi} \frac{1}{R^4 e^{4i\theta} + R^2 e^{2i\theta} +1} \cdot Rie^{i\theta} d\theta \right| \\ \displaystyle \leq \int_0^{\pi} \left| \frac{1}{R^4 e^{4i\theta} + R^2 e^{2i\theta} +1} \cdot Rie^{i\theta} \right| d\theta \\ \displaystyle = \int_0^{\pi} \left| \frac{R}{R^4 e^{4i\theta} + R^2 e^{2i\theta} +1} \right| d\theta \\ \leq \displaystyle \int_0^{\pi} \left| \frac{R}{R^4-R^2-1} \right| d\theta = \frac{R}{R^4-R^2-1}\pi \to 0 (R\to \infty ) \)
よって
\(\displaystyle \lim_{R\to \infty} \int_{C_1} \frac{dz}{z^4+z^2+1}=0 \)
となるから
\(\displaystyle \lim_{R\to \infty} \int_{C_2} \frac{dz}{z^4+z^2+1}=\int_{-\infty}^{\infty} \frac{dx}{x^4+x^2+1}=\frac{\pi}{\sqrt{3}} \)

かなり複雑ですが基本このパターンになるので型として覚えておきましょう。C1+C2は留数定理でわかる+C1は極限が0だからC2がわかるというような論法です。

より正確なところを言うと
\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} f(x)dx = \lim_{R_1,R_2\to \infty} \int_{-R_1}^{R_2} f(x)dx \)
のことです。つまり\( R_1=R_2 \)とは限らないのです。しかしこの解法では\( R_1=R_2 \)のときしか調べられていません。それでいいのかというと絶対収束していればいいのです。
たとえば
\(\displaystyle \left| \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{x^4+x^2+1} dx \right| < \int_{-\infty}^{\infty} \frac{dx}{x^2+1} = \pi <\infty \)
などから絶対収束が言えるのでこれでやっと\( R_1=R_2 \)のときだけ調べても問題ないことがわかります。複素積分の練習問題ではここの証明は省略してることも多いです。
ちなみに例題1の被積分関数は偶関数なのでもし積分区間が0→∞なら例題1の計算をしたあと2で割れば求まります。このぐらいの応用力は臨機応変に働かせましょう。

ところで,一部の参考書などではこのパターンを少し一般化して次の内容を「定理」として扱っていることもあります。一応紹介しておきます。

例題1を一般化した定理

P,Qを実数係数の多項式でQの次数はPの次数より2以上大きいものとする。また,Q(z)=0は実数解をもたないとする。
\(\displaystyle f(z)=e^{iax} \frac{P(z)}{Q(z)} (a\geq 0) \)とすると
\(\displaystyle \int_{-\infty}^{\infty} f(x)dx = 2\pi i \sum_{Im(z)>0} Res(f,z) \)
ただし右辺のzはQ(z)=0の複素数解。

これを定理として使ってよいのかはそのときの担当の先生次第です。もしダメなら毎回例題1のようなやりかたをたどっていきましょう。
ほとんどの複素積分は例題1と同様か,プラスアルファで解けますが,かなり変わったパターンがもう1つあります。例題2を見てみましょう。計算量自体は例題1より少ないのでこれもよくテストに出ます。

例題2

0<a<1とする。次の積分の値をaで表せ。
\(\displaystyle \int_0^{2\pi} \frac{d\theta}{(1+a\cos{\theta})^2 } \)
答え\( z=e^{i\theta} \)とおく
\(\displaystyle \frac{dz}{d\theta} = ie^{i\theta} = iz \)
\(\displaystyle \cos{\theta}=\frac{z+z^{-1}}{2} \)
例題2
θ:0→2πのときzは|z|=1を1周する積分経路となる。よって
\(\displaystyle \int_0^{2\pi} \frac{d\theta}{(1+a\cos{\theta})^2 } =\int_{|z|=1} \frac{ \frac{dz}{iz} }{(1+a\cdot \frac{z+z^{-1}}{2})^2} \\ = \displaystyle \int_{|z|=1} \frac{4zdz}{i(az^2+2z+a)^2} \)
ここで|z|=1の内部にある極を求める。
\( az^2+2z+a=0 \)の解は\(\displaystyle z=\frac{-1\pm \sqrt{1-a^2} }{a} \)であるが,|z|=1の内部にある,つまり|z|<1を満たすのはプラスのほうのみ。←注
そこで,\(\displaystyle \alpha=\frac{-1+ \sqrt{1-a^2} }{a} , \beta=\frac{-1- \sqrt{1-a^2} }{a} \)とおく。
αは2位の極なのでαの留数は
\(\displaystyle \lim_{z\to \alpha} \frac{d}{dz} \left\{ \frac{(z-\alpha)^2 \cdot 4z}{a^2 i (z-\alpha)^2 (z-\beta)^2 } \right\} \\ = \displaystyle \frac{4}{a^2 i} \lim_{z\to \alpha} \frac{(z-\beta)^2 -2z(z-\beta)}{(z-\beta)^4} \\ = \displaystyle \frac{4}{a^2 i} \cdot \frac{(\alpha-\beta)-2\alpha}{(\alpha-\beta)^3} \)
よって留数定理より求める積分は
\(\displaystyle \int_{|z|=1} \frac{4zdz}{i(az^2+2z+a)^2} = 2\pi i \cdot \frac{4}{a^2 i} \cdot \frac{(\alpha-\beta)-2\alpha}{(\alpha-\beta)^3}\\ = \displaystyle \frac{-8\pi}{a^2} \cdot \frac{\alpha+\beta}{(\alpha-\beta)^3} \\ =\displaystyle \frac{8\pi}{a^2} \cdot \frac{2}{a} \cdot \frac{a^3}{(2\sqrt{1-a^2})^3} = \frac{2\pi}{(1-a^2)^{\frac{3}{2}}} \)

注:α,βのうち絶対値が1より小さいのはαのみである部分については,解と係数の関係よりαβ=1,|β|のほうは明らかに1より大きいので|α|<1とわかります。

このようにcosθとsinθの積分で,積分区間が0→2πのときは\( z=e^{i\theta} \)とすれば単位円の積分に帰着できます。定理として書くと次のようになります。

例題2を一般化した定理

\(\displaystyle \int_0^{2\pi} F(\cos{\theta},\sin{\theta}) d\theta = \int_{|z|=1} F\left(\frac{1}{2}(z+\frac{1}{z}) , \frac{1}{2i}(z-\frac{1}{z}) \right) \frac{dz}{iz} \)

こちらも証明なしで使ってよいかは先生次第です。積分区間が0→πなどの場合はうまく工夫して0→2πにならないか考えてから適用してみましょう。
さて,この2つが絶対おさえておくべき「基本」パターンですが,他にも応用パターンはあります。基本的には積分経路さえわかればできるはずです。長くなったので次のページでいくつか紹介していきます。ただ,応用パターンを読む前に基本パターンぐらいの難易度はスラスラ理解できるようにしておきたいところです。

次のページ(応用の応用)はこちら

 

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