上野竜生です。ウォリス積分は難関大学の入試にたまに出ます。性質や求め方を紹介します。
ウォリス積分の定義
をウォリス積分という。
性質1: \( I_n=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \cos^n{x} dx \)
[証明]
\( \displaystyle \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \sin^n{x}dx=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \cos^n{x} dx \)を示せばよい。左辺で\( t=\frac{\pi}{2}-x \)と置換すると
(左辺)
\( \displaystyle = \int_{\frac{\pi}{2}}^{0} \sin^n{\left(\frac{\pi}{2}-t\right) }(-1)dt \\
= \displaystyle \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \sin^n{\left(\frac{\pi}{2}-t\right)}dt \\
=\displaystyle \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \cos^n{t} dt\)
=(右辺)
最初のアイデアだけ覚えていればあとは復元できるでしょう。
性質2:\( I_{n+1}=n(I_{n-1}-I_{n+1})\)
[証明] 部分積分を用いる
\( \displaystyle I_{n+1} \\
= \displaystyle \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \sin{x}\sin^n{x}dx \\
= \displaystyle \left[ (-\cos{x})\sin^n{x} \right]_{0}^{\frac{\pi}{2}}-\int_{0}^{\frac{\pi}{2}} (-\cos{x})\cdot n\sin^{n-1}{x}\cos{x} dx \\
= \displaystyle n \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \sin^{n-1}{x}\cos^2{x} dx \\
= \displaystyle n \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \sin^{n-1}{x}-\sin^{n+1}{x}dx \\
= \displaystyle n(I_{n-1}-I_{n+1})\)
これも部分積分を使うことはほぼ明らかなので復元できるでしょう。
性質3: \(I_n\)は偶奇で場合分けして計算できる。
計算結果は
nが偶数のとき,\(I_n= \displaystyle \frac{n-1}{n} \cdot \frac{n-3}{n-2} \cdots \frac{1}{2}\cdot \frac{\pi}{2}\)
nが奇数のとき,\( I_n = \displaystyle \frac{n-1}{n} \cdot \frac{n-3}{n-2} \cdots \frac{2}{3}\cdot 1\)
[証明]
n=0のとき\( \displaystyle \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} 1 dx=\frac{\pi}{2}\)
n=1のとき\( \displaystyle \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \sin{x} dx =\left[ -\cos{x} \right]_{0}^{\frac{\pi}{2}}=1\)
性質2の漸化式を変形すると
\( (n+1)I_{n+1}=nI_{n-1} \)
つまり,
\( \displaystyle I_{n}=\frac{n-1}{n} I_{n-2}\)
これを繰り返し使うとnが偶数のとき
\( \displaystyle I_n\\
= \displaystyle \frac{n-1}{n} I_{n-2}\\
= \displaystyle \frac{n-1}{n} \cdot \frac{n-3}{n-2} I_{n-4} \\ = \displaystyle \cdots \\
= \displaystyle \frac{n-1}{n} \cdot \frac{n-3}{n-2} \cdots \frac{1}{2} I_0 \\
= \displaystyle \frac{n-1}{n} \cdot \frac{n-3}{n-2} \cdots \frac{1}{2}\cdot \frac{\pi}{2}\)
nが奇数のとき
\( \displaystyle I_n\\
= \displaystyle \frac{n-1}{n} I_{n-2}\\
= \displaystyle \frac{n-1}{n} \cdot \frac{n-3}{n-2} I_{n-4} \\ = \displaystyle \cdots \\
= \displaystyle \frac{n-1}{n} \cdot \frac{n-3}{n-2} \cdots \frac{2}{3} I_1 \\
= \displaystyle \frac{n-1}{n} \cdot \frac{n-3}{n-2} \cdots \frac{2}{3} \cdot 1\)
ここまでは入試の過去問でたまに出てますし知っている人も多いかもしれませんがここから先も紹介します。
性質4:\( \lim_{n \to \infty} \sqrt{n} I_n =\sqrt{\frac{\pi}{2}} \)
[証明] 性質2の漸化式を整理すると
\( (n+1)I_{n+1} = nI_{n-1} \)
両辺に\(I_n\)をかけると
\( (n+1)I_{n+1}I_n= nI_nI_{n-1} \)
よって\( nI_nI_{n-1} \)は定数でその値は\( 1 I_1 I_0 =\frac{\pi}{2} \)
つまり,\( \displaystyle I_n I_{n-1}=\frac{\pi}{2n}\)
\( I_{n+1}I_n \leq I_n^2 \leq I_n I_{n-1} (∵\sin^{n+1}{x} \leq \sin^n{x} \leq \sin^{n-1}{x} ) \)より
\( \displaystyle \frac{n}{n+1} \frac{\pi}{2} \leq n I_n^2 \leq \frac{\pi}{2} \)
ハサミウチの原理より求める式を得る。
性質5:ガウス積分\( \int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2} dx=\sqrt{\pi} \)
[証明]
・実数全体で\( e^x \geq x+1 \)が成立する。
\( ∵f(x)=e^x-x-1\)とおくと\(f'(x)=e^x-1 \)でx=0のときにf'(x)の符号が負から正に変わるので極小かつ最小。f(0)=0よりこの式は成立。
・\( e^{-x^2} \geq 1-x^2 \)かつ\( e^{x^2} \geq 1+x^2 \)が成立。2つめの式の逆数を取ると[step1]は成り立つ
[step1]の式をn乗してから積分すると次の式が得られる
\( \displaystyle \int_0^1 (1-x^2)^n dx \leq \int_0^1 e^{-nx^2} dx \leq \int_0^{\infty} e^{-nx^2}dx \leq \int_0^{\infty} \left( \frac{1}{1+x^2} \right)^n dx\)
真ん中の不等式は積分区間を変えているだけで被積分関数が0より大きいので成立。
これより示すべき式は\( \displaystyle \int_0^1 (1-x^2)^n dx = I_{2n+1} \ldots (A)\)と\( \displaystyle \int_0^{\infty} \left( \frac{1}{1+x^2} \right)^n dx=I_{2n-2} \ldots (B)\)
(A)について\(x=\cos{\theta} \)と置換すると
\( \displaystyle \int_{\frac{\pi}{2}}^{0} (1-\cos^2{\theta})^n(-\sin{\theta})d\theta=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \sin^{2n+1}{d\theta} = I_{2n+1}\)
(B)について\( x=\tan{\theta} \)と置換すると
\( \displaystyle \int_{0}^{\frac{\pi}{2}} \cos^{2n}{\theta} \cdot \frac{1}{\cos^2{\theta}} d\theta=I_{2n-2}\)
よって[step2]は成立。
最初の式は\(x=\sqrt{n}t \)と置換し,偶関数の積分の性質を利用すると得られる。
\( \displaystyle 2\sqrt{n}I_{2n+1} < 2\sqrt{n}\int_{0}^{\infty} e^{-nt^2}dt < 2\sqrt{n}I_{2n-2} \)より
\( \displaystyle 2\sqrt{n}\sqrt{\frac{\pi}{2(2n+1)}} \leq 2\sqrt{n} \int_{0}^{\infty} e^{-nt^2}dt \leq 2\sqrt{n} \sqrt{\frac{\pi}{2(2n-2)}}\)
両端の式はn→∞で\( \sqrt{\pi} \)に収束するからハサミウチの原理より[step3]は成立。
以上よりガウス積分が証明できました。
性質3までは通常の入試でたまに出ます。性質4以降は数学重視の入試(特色入試など)ではまれに出るレベルですが一般入試ではまず出ないといっていいでしょう。
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